No.28
「ポリヴェーガル理論」は科学ではない
ポリヴェーガル理論という、心理療法や心理学の分野でよくとりあげられる仮説があります。元々は、自律神経系の構造や働きについて述べたものですが、今や、進化論的、社会論的広がりをもっています。
自律神経系が今まで言われていたのとは異なった構造からなっており、自律神経の連関とくに、自律神経の一つである迷走神経が、感情コントロール、社会的つながり、ストレスやトラウマに対する反応をつかさどっているとするものです。うつやPTSDなどの病的な精神状態もそこに介入することでよくなるとされています。
ポリヴェーガル理論は、1994年にアメリカの行動神経科学者スティーブン・ポージェスによって発表されました。以下に、私が講演を聞いたり、調べたりして知りえた範囲内のポリヴェーガル理論の具体的な内容につき述べます。
まず、これは従来の考え方ですが、自律神経とは何かというと、自律神経は、内臓や血管などに分布し、そこからの情報を得て、内臓臓器や血管などの働きを調整するものです。循環、呼吸、消化、ホルモン分泌、全身の代謝などをコントロールしています。
自律神経には、交感神経と副交感神経があり、それぞれ、ほぼ反対の働きをします。一つの臓器に両方の神経が分布しており、例えば、心臓では、交感神経は心拍数を上げ、心臓の拍出力も上げますが、副交感神経は心拍数を下げ、心拍出力も低下させます。この2つの拮抗する(反対に作用するということです)神経によりその時々に最適な調整がなされます。
副交感神経の大部分は迷走神経という神経です。迷走神経を英語でvagal nerve(ヴェーガル・ナーブ)と言いますが、ポリヴェーガル理論のポリヴェーガルとは、「ポリpoly多重の + ヴェーガルvagal 迷走神経の」という意味で、迷走神経には多重な構造や機能があると主張し、それに基づく理論というわけです。
ポリヴェーガル理論では、副交感神経には腹側副交感神経系と背側副交感神経系があるとしています。
(ヨガアカデミー大阪、https://www.yoga-academy.jp/program/14795/)
「腹側迷走神経系」は、哺乳類など、生物の進化により発生した、系統発生的に新しい神経で、複雑化する環境に対する反応や行動をより洗練された形で応答するためのものです。自己鎮静化や社会的調整はかるもので、闘争的反応のような激しい反応を制御するもとされています。
「背側迷走神経系」は、系統発生的に古い神経構造であり、原始的な脊椎動物にもみられるものです。強いストレスや脅威にさらされると、動物は固まってしまい、この神経系の働きにより、「不動化」、「シャットダウン」が起こるとされています。
一方、「交感神経」は、ストレスや危険に対して「闘うか逃げるか」、体を可動化して対処するものとされています。
((株)ワークハピネス、https://workhappiness.co.jp/blog/training/polyvagal/)
(つむぐ指圧治療室HP、https://tsumugu-shiatsu.com/archives/483)
上の図の通り、腹側迷走神経系は、我々が、自我を保ちながら、他者との間でコミュニケーションをすすめ、社会の中で円滑に生きていくために非常に重要な神経機構とされています。
腹側迷走神経系優位に働いている状態が望ましい状態ということです。そして、こころに何らかの悩みを抱えている人では、心理学的に腹側迷走神経系に介入して、ストレスなどに対する耐性の窓を広げることが重要であるとされています。
(メンタルサポート・アイバランス、ポリヴェーガル理論の本で紹介されました – カウンセリングルーム・アイバランス(茨城県守谷市))
(ヨガジェネレーション、ヨガ指導者が知っておきたい!ポリヴェーガル理論とは? | ヨガジェネレーション yogageneration)
以上がポリヴェーガル理論の概略ですが、これに関して、科学的な裏付けは全くないと言っていいと思います。私に言わせれば、「ポリヴェーガル理論」は疑似科学です。
確かに、迷走神経は腹側核群と背側核群が存在していますが(核とは神経細胞体の集まりです)、それが、ポリヴェーガル理論で言われているような「不動化」と「社会的関与」という機能を担っているというような解剖生理学的な知見はありません。
我々の思考や意思や感情は大脳(辺縁系を含む)で形成されているもので、そこに自律神経系は少なくない影響を与えているとは思いますが、自律神経系でそれが形成されているわけではありません。
心も体もシャットダウンしたり、社会の中で生き抜くための他者との交流点や妥協点をみいだそうとしたり、というようなことはポリヴェーガル理論によらず、当たり前のことです。耐性の窓を広げるというような用語もずっと以前から使われてきた言葉です。自律神経系の影響とその重要性についても言われ続けていたことです。
心理学的な知見やカウンセリング等で得られる臨床知の理解や説明にポリヴェーガル理論が有用なのはわかりますが、それを、証明されていない神経学的構造や機能に安易に結びつけ、あたかも科学的裏付けが得られているかのように世に広げていくことは問題だと思います。
神経学的メカニズムを考えることは重要ですが、脳科学では・・とか、量子力学では・・とか、こういった理論はすぐに権威的な後ろ盾をほしがる傾向があるるように思ってしまします。
モデル論の必要性や有効性はよくわかるのですが、モデル論では、全てがマニュアル的に理解、対応され、無理な当てはめや決めつけが起こるという危険性があると思います。例えば、ポリヴェーガル理論で、「今、この子は凍り付き状態、『背側モード』です」腹側系に働きかけましょう」と、ありもしない神経構造がまるで見えているかのように扱われ、何も考えない対応が起こりがちにならないかということです。
積み上げられた臨床知と科学的な裏付けからモデルを形成することは重要だと思いますが、個々の症例に丁寧に対応していく姿勢が必要だと思います。また、ポリヴェーガル理論によると、自律神経系への介入が重要となるわけですが、ポリヴェーガル理論派の人たちの対応が本当の意味で自律神経系に介入しているかどうかのところが私にはよくわかりません。
先にも述べたように、私はストレスやトラウマに対する自律神経系の働きを否定するわけではありません。
大脳皮質がつかさどる思考や意思や行動に自律神経系が大きな影響を与えていることは間違いないと思います。大脳皮質が判断する前に体が反応していることも多く、そのような反射的な反応に自律神経系が関与している部分は大きいと思います。ただ、これも、自律神経系が、どこに、どのように作用しているかは科学的に明確にはされていません。精神症状に伴う身体症状は自律神経の作用によるものですし、インプット、アウトプットともに自律神経系が大いに関与しているのは間違いありません。
今後これらが真に科学的に解明されていくことを期待しています。
この稿で、「ポリヴェーガル理論」に興味をもたれた方は、我が国の第一人者である津田真人先生の著書や論文をお読みになるのが良いかもしれません。
夏のピークがすぎた気分をこれほど美しく表現した曲はないと思います。
夏のピークがすぎていった気分、若者という一つのピークをひょっとしたら過ぎてしまったのかもしれないという気分。
夏の終わりに、若者をとうに過ぎ去っってしまった私の中にまだかすかに残っている若者という気分をもう一度思い出させてくれる、毎年聴きたくなる曲です。
最後の最後の花火が終わった後に、僕らは変わることができるのだろうか。
フジファブリック (Fujifabric) - 若者のすべて(Wakamono No Subete)
著者 たかの発達リハビリクリニック
院長 高野 真
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