

たかの発達リハビリクリニックTOP > 院長通信 > No.29 筋トレ神話はどれだ・「New England Journal of Medicine」をレビュー・今月の1曲

No.29
筋トレ神話はどれだ
中学生以上の起立性調節障害の人に、私は筋トレを勧めています。その他、心理的な要因などで不登校になっている人にも勧めています。真剣に取り組んでくれて、結構調子が良くなる人もいたりします。
そんな筋トレに関して、ちょっとおもしろい論文を見つけたので紹介します。ほかにもいくつか興味深い論文がありましたので、今回は、論文レビューの回とします。
Knowledge of gym goers on myths and truths in resistance training
ジム通いをする⼈のレジスタンストレーニングに関する神話と真実に関する知識
A.Unger Sci Rep. 15:3401(2025)
レジスタンストレーニングとは、筋力を向上させるために負荷(抵抗)をかけて行うトレーニングのことでいわゆる筋トレと同じと思ってもらったらいいです。筋肉に強い負荷をかけ短時間で行う運動は、ウォーキングやジョギングのような有酸素運動と違って無酸素運動です。脂肪燃焼よりも筋力向上を目指すものです。
筋トレに関しては、科学的にいろいろなことが解明され、近年は科学的な筋トレが行われていますが、事実とは異なる都市伝説的に信じられていることも多いです。
この論文は、筋トレをする人に信じられている真実と神話について、調査をしたものです。下記にその概要を述べます。
以下の14の項目につき、一般の(専門家を除く)トレーニングジム利用者にアンケートをとり、どの程度、真実が認知されているかを調べた。
それぞれ、これまでに科学的に証明されている結果では、次の通り
1.〇、2.×、3.×、4.○、5.×、6.×、7.×、8.○、9.×、10〇、11.×、12.○、13.×、14.×
ジム利用者の半数以上が正解通りに答えたのは、1、4、7、9、12の5項目のみであった。神話的に信じられていることが多かった。
というものでした。プロテインやクレアチンを摂ることは筋肥大や筋力アップに有効と考え多くの人が摂っているわけですが、これは真実ということです。ただし、摂り過ぎは腎機能障害を起こす可能性もあるようなので注意は必要です。
筋力アップには高負荷RTの方が有効ですが、筋肥大に関しては低負荷RTでも同等に有効ですし、限界までのRTが必要ではないことは知っておいた方がいいように思います。その他の項目も筋トレを行う人は注意しておいてください。
医学雑誌というのは本当に数多あるのですが、有名な英文雑誌のほとんどは、権威ある学会の機関紙として発行されています。
例えば、「Pediatrics」(日本語に訳せば、「小児科」です)という雑誌は、米国小児科学会の機関紙です。論文を投稿すると、エディターやレフリーと呼ばれる人に、論文内容につき、掲載するにふさわしい内容であるかどうかが審議されます。審査の結果OKがでると、これをよくアクセプトされた(受理された)といいますが、掲載されることになります。
一方、いずれの学会にも属さない、いわゆる商業誌であるが、最も権威あるとされるような科学誌があります。「Nature」や「Science」がそのような雑誌ですが、学会専門誌よりも、さらに厳しい審査が行われ、その採択率は低いものとなっています。
このような雑誌の、臨床医学版として、「New England Journal of Medicine」(NEJM)があるのですが、そこに興味深い小児関連の論文がいくつか載っていたので紹介します。
Liraglutide for Children 6 to <12 Years of Age with Obesity — A Randomized Trial
6 歳以上 12 歳未満の肥満の小児に対するリラグルチド ― 無作為試験
C.K. Foxら、NEJM 392:555-565(2025)
無作為コントロール試験というのは、ある薬を飲む群と飲まない群2つのグループに分けてその効果をみる研究ですが、グループに分ける分け方を、くじ引きや乱数表のようなもので作為なく分けて、患者も治療者もどちらのグループに入っているのかわからない形にするやり方を言います。
試験参加者は、本当の薬(実薬)か、それとまったく同じ外見のニセ薬(偽薬)が投与されます。これは薬を出している医者にもわかりません。そういうバイアスがかからない状態にして効果をみるというもので、NEJMに載るような研究は全て大規模無作為試験です。
肥満に対しては、どういう治療や指導をすればいいのか、私も日々困っているのですが、この論文では、6歳から11歳の肥満の児に,リラグルチドという薬が投与され、56 週間後の比較が行われています。
リラグルチドという薬はどういう薬かというと、GLP-1受容体作動薬に分類される糖尿病の薬です。商品名では、ビクトーザです。
結果は、リラグルチドは肥満改善に有効でした。46%の児でBMIが5%以上低下したとのことで、これはかなり大きな改善だと思います。有害事象も偽薬群と差がなかったとのことです。では、肥満のこどもに糖尿病の薬を使うかと言われると(今は、もちろん単純肥満の小児にこの薬を使うことはできないわけですが)、私はためらいますね。
ちなみに、この研究は、リラグルチドを販売しているノボ ノルディスク社から助成金を受けた研究です。もちろん、これは正当な助成金ですし、研究は正当に行われたものです。
Multidose Ondansetron after Emergency Visits in Children with Gastroenteritis
救急受診した胃腸炎の小児に対するオンダンセトロンの複数回投与
S.B. Freedmanら、 NEJM 393 : 255 - 66
小児救急部を受診した6か月から17歳の急性胃腸炎患者に対して、オンダンセトロンの効果を無作為試験で調べたものです。上の論文と同じように、オンダンセトロンを投与した群と偽薬を投与した群でその効果を比較検討しています。
結果は、オンダンセトロンが投与された群では,中等症~重症の胃腸炎となるリスクが低下、投与後、48時間以内の嘔吐数が少なかった。有害事象に差はなかったそうです。
オンダンセトロンは今から30年以上前に発売された制吐剤(嘔吐を抑える薬)です。このタイプの薬は嘔気や嘔吐を抑える作用か強く、それまで有効な方法がなかった抗がん剤による嘔気・嘔吐を抑えるのに画期的な薬でした。今でも、抗がん剤の嘔気・嘔吐を完全に抑えることは難しいのですが、このタイプの薬がなかった頃とは大違いです。
あくまで、嘔吐をおさえているだけなので、胃腸炎を治しているわけではありませんが、重症化するのを回避することができたようです。この薬も現在、急性胃腸炎については、適応がありませんが、今後、症例を選んで使用するということができるようになるかもしれません。
Intravenous Rehydration for Severe Acute Malnutrition with Gastroenteritis
胃腸炎を伴う重度急性栄養不良に対する静脈輸液
K. Maitlandら、NEJM 393:1257-1268(2025)
重度の急性栄養不良児に対しては、静脈輸液療法(リンゲル液などの点滴)は行わない方がいいとされています。
これは、体液過剰となり、肺水腫や心不全など他の重篤な疾患の危険性が高いからというものです。一方、重度の急性栄養不良児の死亡率は高く,治療のために静脈輸液が用いられていることもあります。
どちらがより正しいのかを明らかにするために、アフリカの4か国で、生後6 ヵ月から12歳の胃腸炎と脱水を伴う重度の急性栄養不良児にたいして、経口補水を行うグループと静脈輸液を行うグループに分けその効果を検討しています。主要評価項目は96時間の時点での死亡です。
結果は、経口補水群と静脈輸液群で死亡率の差は見られませんでした。有害事象も有意な差はありませんでした。ただし、経口補水群の大部分(93%)が自力での摂取ができない状態で、経鼻胃管(鼻から胃に入れるチューブ)が挿入され、そこから投与されています。
これは、点滴を行っても危険はなかったし、点滴を行わなくても死亡率に変わりはなかったということで、どちらも一方的には否定できないという結果でした。
結果が、死んだか死ななかったというような、日本の普通の胃腸炎とまったく比較できないような話ですが、死にそうな状態でも輸液をしなくても大丈夫だったというのは少し驚きでもあります。それなら、普通の胃腸炎では経口補水液で十分というふうに思えます。ただ死ぬか死なないかの話ではなく、どちらがより楽に過ごせるか、重症化しないかというところが大事なのですが。
Medical Imaging and Pediatric and Adolescent Hematologic Cancer Risk
医用画像検査と小児・思春期児における造血器腫瘍のリスク
R. Smith-Bindmanら、NEJM 393:1269-1278(2025)
小児期のレントゲン、CTなどの検査による被爆が将来の癌、とくに造血器腫瘍の発生にどれくらい影響を与えるかということは、昔から議論されている問題です。造血器腫瘍とは、血液の悪性腫瘍で、悪性リンパ腫や白血病のことです。この度、カナダで調べられた研究が報告されました。対象人数が370万人とすごく大きな研究で。価値があると思います。
結果は、がんの危険性は、累積放射線量の増加とともに高まり、50mGy(ミリグレイ) 以上100mGy 未満では3倍以上発がんのリスクが上昇していました。
一般に放射線の被爆に関して、Sv(シーベルト)というのをよく聞かれるのではないかと思います。例えば、地球上で生活している上で避けられない自然放射線量というのがあります。地域により少し差はありますが、年間で約2.4mSv(ミリシーベルト)と言われています。胸部レントゲン写真を1枚とると、0.05mSv、頭部CTでは2mSV程度被爆すると言われています。
このSv(シーベルト)とGy(グレイ)とがどういう関係にあるかというと、グレイは放射線があたったときにその生物が吸収した放射線量の単位です。吸収線量と呼ばれます。シーベルトは、放射線を受けた生体がうけた影響をあらわしたもので、実効線量と呼ばれるものです。Gyに、放射線の種類による係数と組織により異なる係数を掛けて、全身の組織で合計したものがSvで、例えば、1グレイのX線を全身に受けた場合、1シーベルトとなります。
したがって、例えば、原子力発電所の事故で1Gyの放射線を全身にあびた場合、実効線量も1Svとなり、単純にGy=Svとしていいようです。
そうすると、先の頭部CTが2mSvであれば、2mGyでいいのではないかということになりますが、そのあたり、私もよくわからないのですが、この論文によると、造血器腫瘍に関わる骨髄の被曝がどれくらいかと言うと、胸部レントゲン撮影では0.01mGy、頭部CTでは13.7mGy、胸部CTは4.4mGy、腹部CTは3.8mGy、下肢のCTは0.1mGyとなっていました。
そうすると、胸部レントゲン写真は少々何枚とろうが、ほぼ問題ありませんが、頭部CTは危険性がだいぶ高いということになります。私が思っていた以上に大きな影響がありそうです。ただし、これは低年齢でとくに言えることで、11歳以上になると吸収線量(グレイ)がかなり下がりますので、小さいこどもの場合はあらためて注意が必要だということだと思います。
今回は、以上です。
私の家の庭に金木犀の木があります。あの金木犀の香りが、最近、あまりわからなくなってきました。花が咲いているのが1週間くらいないので、タイミングを逃しているだけかもしれませんが。
この木は私が植えたものではなく、前に住まわれていた方が植えたものです。うちは男の子4人だったので、集合住宅には住めないので、早くから家を探していました。一人暮らしの私の祖母の調子が悪いというようなこともあり、その近くにしてもいいなかと土地をさがしていたところ、祖母も顔見知りの方が、ご主人がお亡くなりになり、娘さんのところへ行かれるという話があり、そこを買わせていただきました。私の祖母もとうになくなってしまいましたが、その方も年賀状だけのお付き合いでしたが、お亡くなりになったと娘さんからお手紙をいただきました。金木犀は1年に1回忘れずこの季節に香り続けてほしいです。
すべての人はみんな自分が主人公の物語を生きている。秋の夜の何とも言えないこの気分を伝える名曲です。
「金木犀の夜」きのこ帝国
著者 たかの発達リハビリクリニック
院長 高野 真
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